こんにちは!猫森うむ子(@umuco_digital )です。
タイトル通り「縄文にハマる人々」を取り上げたドキュメンタリー映画。面白かったので感想や考察などをまとめました。
映画「縄文にハマる人々」公式アカウントにリツイート&コメントをいただきました!
「縄文にハマる人々」のレビューをアップしました!
かなり面白くて、感想と考察を交えて書いたので、長文になってしまいました。
アジアンドキュメンタリーズ@asiandocs_tokyo で視聴できます!かなりおすすめです🐱⚡️
映画「縄文にハマる人々」@jomonhamaruhttps://t.co/hXFDqj4oaA
— うむ子umuco🐱⚡️@図解ブロガー (@umuco_digital) July 27, 2020
少し長くなってしまったので、気になるところだけでもご覧ください!
基本情報
2018年制作/日本のドキュメンタリー映画 102分
監督 :山岡信貴
ナレーション:コムアイ(水曜のカンパネラ)
出演者:
いとうせいこう
池上高志(東京大学教授)
佐藤卓(グレフィックデザイナー)
猪風来(縄文造形家)ほか
このレビューで使用したアイキャッチ画像、ジャケット画像は縄文にハマる人々公式サイトからお借りしました。
「縄文にハマる人々」概要
5年間で100箇所以上の取材を行い制作された「縄文」をテーマにしたドキュメンタリー映像作品。
縄文にハマる人々だけでなく、考古学、民俗学、古代史の研究家、アーティストや文化人など様々な視点から語られ、謎めいた文化や思想を浮かび上がらせる。
1000点以上も登場する土器や土偶の造形にあらわれる生命感を感じながら、答えがないとも言える縄文のミステリーを探る旅。
縄文に触れることで見えてくるものは、現代人が忘れてしまった根源的な生命の原理なのか…
「縄文にハマる人々」感想
縄文好きじゃなくても楽しめる102分
近年、注目を集める縄文の文化ですが、この映画は縄文をノンマークだった人にもおすすめの内容です。
はじめは「なぜ多くの人が縄文に熱狂しているのかがわからない」という印象で綴られるテロップが続きますが、次第に変化する山岡監督自身の価値観がテロップに反映されていきます。
様々なジャンルの専門家から語られる縄文の文化や思想への考察が興味深く、映画が終わるころには世界をみる視点が大きく変わるような作品です。
映像のアプローチがかなりポップなので、専門的でマニアックな「閉じた印象」ではなく、どんな人でも縄文の世界観を楽しめると思います。
音楽も心地よく、土器や土偶の映像と重なることで縄文もつの生命力や躍動感がよりドラマティックに伝わってきます。
個人的にはテロップの渦巻きアニメーションにもこだわりを感じました!
圧倒的に長く繁栄した縄文の秘密
縄文時代は約1万年以上続いたと言われています。弥生時代がはじまってから現代までが約3000年なので、その5倍もあります。
ちなみに弥生時代は約300年、明治から現代までは約240年。1万年以上という圧倒的に長い縄文時代。
映画の後半に進むにつれ、なぜ縄文がこれだけ長い年月続いたのかを理解できました。
インタビューに答える縄文にハマる人々は口々に、「縄文人は自然に抗わない」と言います。
縄文時代は狩猟をして生活を営んでいましたが、弥生時代から農耕に切り替わりました。
自然を飼いならしてコントロールするのではなく、森羅万象の一部として生きる縄文人の思想が、自然と共生するサステナブルな社会を築いたのではないかと思います。
縄文というブラックボックス
縄文土器や土偶、貝塚や住居跡に対して専門家の考察が収録されているのですが、決定的なひとつの答えがあるのではなく様々な見解があります。
縄文の謎を解き明かすことは、ブラックボックスを探るようなイメージに近いのではないかと思います。
共通する手応えがありつつも、わかりそうでわからない。
「わかった!」と決めつけた時点で、それは縄文の一部を切り取っただけであり本質を掴めない。そんな印象があります。
縄文にハマる人々が共通して感じていること
生命力・動き・女性原理・自然との共生・生と死・神話性・普遍性・循環
アミニズムやシャーマニズム的な、自然の哲学が縄文の秘密を紐解く鍵なのではないかと考えられます。
こちらの記事で自然との共生や、生と死のサイクルについて解説しています。
【レビュー&考察】贈与論とは?マルセルモースの名著をイラストでわかりやすく解説土器と土偶のカタチに隠された神秘
ご存知の方も多いと思いますが、縄文土器や土偶はかなり独特なカタチをしています。
映像の中でも1000以上の土器、土偶が紹介されています。縄文にハマる人々の多くが、土器や土偶のカタチにインスピレーションを受けて様々な角度から考察しています。
縄文土器のシンボル
土器にはヒト、イノシシ、ヘビ、フクロウ、出産などのモチーフが多用されています。
イノシシは狩猟民族である縄文人にとって、生命や暮らしと切り離せない重要な動物と考えられます。
ヘビとフクロウの組み合わせが描かれる土器について小杉康氏(北海道大学大学院教授)は、猛禽類がヘビを咥え、そのヘビが猛禽類の背中を噛むという構図が描かれていると語ります。
小杉氏曰く、循環を意味しているのではないかとのことですが、日本以外の古代思想にもヘビとフクロウの象徴を扱うものがあるので納得できます。
フクロウの象徴:知恵、知識、精神、俯瞰、夜、空
ヘビの象徴:本能、生命力、欲求、肉体、地
土偶の役目
土偶は祭事に使われていたという説が多く、そのほとんどが割れた状態で発見されています。
土偶を割ること自体に意味があったと考えられており、その理由については諸説あります。
個人的には豊作を願う儀礼として割ったという説が一番有力なのではないかと感じました。
というのも、割れた状態で発見される土偶のほとんどが女性をモチーフにしており、世界各地で見られる食物起源神話の型に関係していると考えることができます。
「ハイヌウェレ型神話」
ドイツの民俗学者であるアードルフ・イェンゼンが、その典型例としたインドネシア・セラム島のヴェマーレ族の神話に登場する女神の名前から命名したもの。
日本ではオオゲツヒメ、保食神(ウケモチ)、ワクムスビなどのが食物起源神話として知られています。
神話は象徴であり「型」のような役割を持っています。狩猟民族である縄文人が食物を得るための儀式的な意味で、土偶を割ったのではないかと考えられます。
縄文と岡本太郎
縄文の美を発掘した芸術家
岡本太郎は縄文に美しさを見出し、はじめて美術的な視点で魅力を語ったことで知られています。
それまでの日本美術史には縄文の美的価値は評価されていませんでした。
岡本太郎は芸術家でありながら民族学者でもあり、原始的な暮らしの中に根付く生きたアートの魅力を理解していました。
映画の中では、縄文の原始的芸術に対して岡本太郎が表現した言葉がいくつか紹介されています。
「非常なアシンメトリー」「不協和なバランス」「ハンターの空間センス」
縄文土器や土偶の歪さは単に不均衡なわけではなく、動いている状態を表しているという考えかたがあります。
こちらのドキュメンタリーもおすすめです。
【レビュー】映画「太陽の塔」岡本太郎の生命の哲学と現代人への問題提起自然のもつカオスと秩序
映像の中で、カオス理論と人工生命の専門家である池上高志氏が語るように、縄文人は有機的な生命をつくろうとしたのではないかと考えられます。
岡本太郎の作品もまた、常に動きが表されている不均衡な曲線が多用されています。
一見無秩序に見えるそのフォルムは、血管や植物の形状のように有機的な秩序をもっています。
生命体のもつ秩序と歪さが縄文土器や岡本太郎の作品に表されていたのではないかと思います。
現代と縄文の対比
映画の最後にこのような言葉があります。
一万年前のわたしは世界の一部。
今日のわたしは世界の中心であるわたし。
「縄文にハマる人々」という映像作品がたどり着いた、縄文の魅力でありメッセージ。そんな風に感じられました。
ときに抗うことのできない猛威を振るう自然の脅威を感じながらも、現代では人間を中心に世界が成り立っているように考えてしまいがちです。
命を奪う力も、与える力も持っている自然。
自然との共生の中に精神的な豊かさを育み、1万年以上も続く社会を生み出したのではないかと思います。
現代人が縛られがちな価値観を土台からひっくり返すきっかけを与えてくれている、おすすめの作品です。
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