あわ丸
こんにちは!猫森うむ子(@umuco_digital )です。
今回は、フランスの社会学者であるマルセル・モースの著書「贈与論」。
文化人類学の古典として有名な贈与論を図解とイラストでわかりやすく解説します。
贈与論で伝えているポイント
・伝統的な「贈与」では、贈る、受け取る、返すが義務として行われている
・物には「金銭的価値」だけでなく「精神的価値」がある
・「贈与」は精神的なコミュニケーションであり、物々交換や現代の経済活動とは別もの
・現代の経済循環においても贈与的な「精神的価値」を意識することが大切(結論とモースの提案)
記事の後半で、考察なども図解しているのでご興味がある方はご覧ください。
名著「贈与論」の図解😺
ギブ&テイク/返報性の原理のしくみを社会学的にまとめています⚡️
信用経済の正体は、「もの」にこめられた精神と、贈り物の3つの義務(習慣/風習) pic.twitter.com/chh8uuh0t9
— 猫森うむ子🐱フリーランス15年×図解ブログ (@umuco_digital) January 5, 2021
【要約】贈与論とは
ポトラッチやクラなど伝統社会にみられる慣習、また古代ローマ、古代ヒンドゥー、ゲルマンの法や宗教にかつて存在した慣行を精緻に考察し、贈与が単なる経済原則を超えた別種の原理を内在させていることを示した、贈与交換の先駆的研究。(Amazon販売ページより)
「贈与論」はフランスの社会学者、文化人類学者のマルセル・モースの代表的な著書。
マルセル・モースは構造主義で知られるクロード・レヴィ=ストロースに影響を与えたことで知られています。
芸術家の岡本太郎も、フランス留学時代にアートそっちのけでモースの民族学の講義を受けていたことは誰もが知るところです。
こちらの映画や、岡本太郎の書籍の中でもマルセルモースの話が登場します。
【レビュー】映画「太陽の塔」岡本太郎の生命の哲学と現代人への問題提起さらにはフランスの哲学者、思想家のジョルジュ・バタイユなどにも影響を与えています。
「贈与論」は、原始的で伝統的な習慣を続ける部族や文化圏を調査し、「贈与=ギフト」の役割や社会的影響を研究した書籍です。
様々な文化圏に残る伝統的な習慣には、次の3つの義務が色濃く残っていることがわかりました。
・贈与することの義務(ギブ)
・受け取ることの義務(テイク)
・返礼することの義務(リターン)
マルセル・モースは、調査でわかった贈与のしくみを通じて、合理化する経済活動に精神的な観点を取り戻すことの大切さを語っています。
しかしそれ以上に、「先の見えない現代に必要なコンセプト」がふんだんに含まれているように思います。
まずは、贈与論で解説されているいくつかの原始的な贈与(ギブ)の習慣や価値観について図解したいと思います。
【図解】原始的な社会の「ギフト」の価値観
「贈与論」で紹介されているさまざまな土地で古代から続く習慣には、いくつかの共通点があります。
物には精神(生命)が入っていると考える
贈りものにも、お返しにも、物には精神(生命)が入っていると考えます。
そのためどのような精神(生命)が入っているかは、部族ごとの伝統や地域ごとで異なります。
物には、自分が所属する家族や土地の一部、自然の霊が入っていると考えるため、単なる日用品としての交換と贈与は分けて考えられます。
贈り物は神聖な儀式である
贈り物は儀式でありコミュニケーションとして、部族の代表者が行います。
部族ごとの伝統にもよりますが、基本的に贈与(交換)は繰り返し一生行われる傾向があります。
儀式の目的は主に次の3つです。
・互いの大事なものを交換し、信頼関係を築く
・争いが起きないよう相手に浪費を余儀なくさせる(戦争の資金を蓄えさせない)
・自然の霊や神への贈りものとして儀式を行う
うむ子
ポトラッチって言葉はもともと「食べ物を与える」「消費する」という意味があるの。
お祭りをひらき財産を使い尽くすことは名誉(大勢に贈与/財産消費)
贈りものにはお返しが義務ですが、お返しの代わりに大きな祭りをひらいて自ら財産を消費(破壊)することもあります。
誰が一番「与える」ことができるかという、競いあうように祭り(宴)を開催する風習も残っています。
・誰が最も富を消費できるか競い合うこともある
・消費の規模によって社会的地位が決まる
・「富は再分配するもの」というスタンダート(しない者は呪われるという神話もある)
ギブ&テイクの義務はどこから生まれたのか?【仮説】
「贈与論」の中では贈与が社会の構造をつくる重要な役割だったことが、たくさんの事例とともにまとめられています。
「その義務はどこから生まれたのか?」という点に対して、「生命や精神を与えたのだから、返すのが礼儀」という先住民の道徳的な価値観を提示しています。
「道徳的な価値観はなぜうまれたのか?」という、さらに根底の思想に興味が湧いてきます。
そこで、原始的な社会構造の基盤となる「自然」と共存するための考え方によって、「贈与」に関する思考体系ができたという仮説を立てて分析してみたいと思います。
自然と共生するためのサステナブルな知性【考察と分析】
ここからは先はすべて「贈与論」には含まれていない、個人的な考察と分析です。
自然のしくみを模範して「ギブ&テイク」の習慣をつくった説
原始的な暮らしを営む人々は自然界の循環システムを熟知しており、自然と共存できる社会形態をつくっています。
フランスの人類学者クロード・レヴィ=ストロースは数多くの調査をもとに、著書の中で自然と人間の関係性について次のことを明らかにしています。
・自然界の秩序と人間の思考の構造が連動している
・多くの部族社会では自然のサスティナブルな循環システムを模範として文化をつくっている
・なるべく自然の有機的なシステムに近づけるために、象徴的な言語表現をつかう
・象徴的な表現は、神話、儀式、トーテムの体系をつくっている
※トーテムとは、動植物や鉱物など自然界にあるものと人の特性を象徴的に結びつける考え方です
儀式的な贈与の習慣も、自然の循環システムを基盤にしたと考えることができます。
うむ子
人間の思考は「言葉」で組み立っているから、原始的な社会に生きる人々はなるべく自然と共存できる表現で言葉を使っているのよ。
それが、比喩表現(メタファー)として、日常言語よりもたくさんの情報量を含む「象徴」としての言葉になっているの。
あわ丸
うむ子
あわ丸
うむ子
自然の循環のしくみを分解してみる
自然はサステナブルな循環システムで機能しています。
「循環=サイクル」と考えた場合、振り子のような反復運動にたとえることができます。
自然界は生と死のサイクルによって、継続的に生命を維持しています。
生と死はワンセット。
クロード・レヴィ=ストロースは「自然」と「文化」のあいだに矛盾が生じたとき、思考によって矛盾を乗り越えるために「神話」が生まれたと言います。
神話は自然界のしくみを比喩的に象徴をつかって表現したストーリーです。神話には生と死をテーマにしたものや、生と死を象徴したものが数多くあります。
「贈与」は自らの一部を消費、破壊する意味をもちます。
つまり、「贈与」はサステナブルな循環を起こすための、「小さな死」を意味します。
生と死のリズム、これこそが自然界の基本の原理です。
こちらのドキュメンタリーの中で様々なジャンルの専門家が、縄文時代の人々の死生観や自然と共生する暮らしについて語っています。
【レビュー】「縄文にハマる人々」生と死、自然と共生するサステナブルな縄文の世界人間も森羅万象の一部であることを考えると、生と死のリズムを意識することはとても自然なことだと思います。
日常生活や習慣のなかで小さな生と死を取り入れることが、無理のないサスティナブルな生き方へと導いてくれます。
成果主義の傾向が強い社会のなかで生きる現代人は、「死」に対して否定的な考えをもつ傾向があります。
小さな死 = 終わる、やめる、壊す、別れる、離れる、捨てる、退散する、解体する、立ち止まる、リセットする、一人で考える
「死」は終わりではなく、新たな循環の始まりである「再生」を促します。
「贈与」は自らの一部を切り離し分配する「死」を象徴するものです。
贈与によって、豊かに循環する社会を築いてきた人々の「自然の知恵」が伝統的な習慣に根ざしていたのだと思います。
ぜひチェックしてみてください。
「贈与論」マルセル・モース
ポトラッチやクラなど伝統社会にみられる慣習、また古代ローマ、古代ヒンドゥー、ゲルマンの法や宗教にかつて存在した慣行を精緻に考察し、贈与が単なる経済原則を超えた別種の原理を内在させていることを示した、贈与交換の先駆的研究。(Amazon販売ページより)